自然の樹液から作られる究極のエコ素材
自然の樹液から作り出される美しい工芸品「漆」。日本の「漆」の歴史は古く、約5500年前の縄文時代までさかのぼります。中でも「蒔絵」は、近世初期、西欧の王侯貴族を魅了したといわれ、法隆寺に残る最古の伝世品である「玉虫厨子」は、日本の代表的文化財として現在もその輝きを放っています。
漆工芸品の製作は、まず木地師によって作られる「木地」に「下地付け」を行うことから始まります。その堅牢さや上塗の仕上がり具合は、この工程で決まるといっても過言ではありません。それから「塗り」へ。漆塗りは、もちろん、塗っては研ぎ塗っては研ぎを、何度も何度も繰り返す手間と根気のいる作業と、職人の繊細で熟練した技術によって支えられています。また、使っていくうちにハゲたりカケたりした場合でも、塗り直して半永久的に使えるのも漆の特長。漆は究極のエコ素材でもあるのです。
デザインコンセプト
「たまには温泉に行きたいなぁ」「ゆっくりお風呂につかりたい」。誰でも思わず口にしてしまう言葉。日本人にとって「湯」と「風呂」は特別な存在です。体の疲れを癒し、気分をリラックス、リセットしてくれる大切な風呂にもかかわらず、近年は少々味気ない気がします。ソファなどの家具やシステムキッチンは多種多様なのに、風呂にはあまり選択肢がない。風呂だってリビングの一部や庭の中に設置するなど、もっと自由に楽しめる存在であってもいいのではないだろうか。
ここで提案する風呂は、家具のように自由にどこにでも設置できるものをイメージしました。そうすることで風呂の可能性もどんどん広がります。木曽の職人による総漆仕上げのこの風呂は、巨大化した漆器のようでもあり、大きなオブジェのようでもあります。風呂が湯をためるという機能的な存在としてだけでなく、日本人の精神性を象徴するようなものになってほしいと考えています。
艶やかな輝きに隠された熟練した技術と根気
ベースになる素材に布を貼り、乾いたら漆で平らにし、さらに乾いた上で磨きをかける作業を、昼夜を問わず行いながら約1ヶ月という時間をかけて製作をした漆風呂。「漆には“美しさ”だけでなく、どこにでも塗ることができ無尽蔵な素材であること、抗菌作用があること、耐熱性が強く800℃の熱にも耐えられるなどの特長がいくつもあります。これらの特長は浴槽を作る上でも、大きなメリットになりました。この浴槽で取り入れたのは“乾漆工法”と呼ばれる工法で、古来から仏像の製法として知られています。ベースには発泡ウレタンを用いその上に布と漆を手作業で塗り重ねることで、漆独特の光沢感はそのままに約30kgという軽量化を実現。移動のできる浴槽ができあがりました」(木曽アルテック社・斎藤寛親)
斎藤 寛親
木工作家/株式会社木曽アルテック社
[プロフィール]
1945年長野県生まれ
70年父親である巣山林山に師事。90年木曽アルテック社を創設、家具デザインを始める。‘03年椅子でグッドデザイン賞を受賞。松本市NHKホールやザ・ペニンシュラ東京などの仕事を手がける。